『香り』
奈央さん

街を歩いていた
香水の香り 彼方の香り
彼方の使っていたシャンプーの香り
流れてくる香り
もう随分と時は経ち
過ぎ去りし日々を呼び戻すのは
香りだけ・・・
嫌に鼻につく・・・ 
今でも彼方がすぐ隣にいる
白昼夢を見るのです

煙嫌いだった私が
彼方の煙草の煙をこの上なく愛していた事
隣人の煙草で知りました

側にいる感覚を忘れたくなくて
忘れられなくて
煙にすがる 香水におぼれる
それが唯一私を慰める術で
そして私を苦しめる刃なのです

今でも彼方は香りを残しては
何処かに存在するのでしょう
それを香りで思い描いて
私は白昼夢を見るのです