Vol.1〜Vol.25
(未完成です。)
【Vol.1】
海に、行った。冬の海がこんなに美しいものとは思わなかった。
それは、わたしの心情がおそらく反映されていたからだろう。
通りゆく漁船がゆらゆらと目の前を東から、西へと移動するのがわたしには、幻灯のようにしか見えなかった。
わたしの心情?
これは、一体なんなんだろう?
人への恋愛のことか?
自分自身の生き方に対する不満の鬱積か?
いや、行動のすべてに感じる不毛の思いだろう。
わたしは、このごろ精神的な不安定を感じるときがあることに思いついている。
【Vol.2】
ロックで飲むターキーは、のどを刺激しながら熱く胃臓に流れて行った。
彼女は、ストレートですこしづつ飲んでいる。
すこしの間、沈黙があった。
一体、わたしはどうしてここで、彼女とほとんど体が触れるくらいなところでいるのだろう?
そう、思った矢先、
「続き聞きたい?」
彼女がそういうのをわたしは、ただうなずいただけだった。
興味本位で聞くのではないが、聞かないことで気持ちが納まることは考えられなかった。
「父はね、最初は会社の同僚からお金を借りていたみたい。家を建てるから、
頭金にするからとか言って。それを何人にもして、返済の約束が
守られなかったから、借りた人たちが怒りだしたの。
そこでね、思いついたのがさっき話をしていたこと、つまり、犯罪なんだよね。
新聞なんかで見てると馬鹿げたことをしてるなあ、って思う銀行強盗なんだよ。
現金輸送車を狙って、覆面をして模造のピストルで脅かして、お金を奪おうと考えたんだね。
でも、そのときね、思いもよらないことがあったんだって。
現金輸送って大抵は専門の運送業者の現金専門の車両つかうよね。
それが、運送業者も銀行とこの手の犯罪を防ぐためにいろいろ手を打っていて、
その日は普通の車を使ったみたいで、父は計画を練ってから何度も下見をしてたけど、
その日に限って頑丈な現金輸送車じゃなかったのね。
あわてた父は、それでもいくらかのお金があると思って、ピストルで脅かしてお金を奪おうとしたんだよ。
もうね、多いとか少ないとか考えられなかったみたい。あ、お金がね。
結局、1000万円くらいしか入ってないバッグを奪って、盗んだ車で逃走したんだけど、その時はうまくいったみたい。
でも、すぐに警察が動き出したのね。
あたりまえだけど。それで、自分の身辺に捜査が及びそうになったのを察したのか、盗んでから、5日目くらいかなあ、
母とわたしを呼んでね、畳の上に輪のように座って、こう言い出したんだよ。
【Vol.7】
そう言って彼女は、
「気をつけた方がいいかもね」
と付け加えた時の顔は、初めて見る笑いをわずかに感じたのでわたしはそれほどの恐怖感はなかった。
それにしても、殺人とは聞き捨てならない言葉である。しかし、わたしは、平然を装っていた。これから、
彼女から殺人については聞くことがあるだろう。
今からか、それともずっと後になるかはしれないが。
わたしは、コーヒーを飲んだ。熱かった。
その熱さがいままでの彼女の不気味とも言っていい雰囲気を一掃するのには、都合がよかった。
「熱い!」
そう言ったわたしは、ただ怖さを紛らわすのが目的だったのかも知れない。
「これ見てくれない?」
と、彼女が差し出したのはテーブルの上に置いてあった分厚いアルバムだった。
アルバムなんて、つまらないものだ。
人のアルバムにはその人だけが感じたその時々の想いでがつまっているだけで、他人が見てどういうことでもない。
そう言うのがわたしの最初の思いだった。
しかし、興味があったのはさきほどの彼女の言葉からくる好奇心がわたしに湧いて来ていたからに違いない。
彼女は、アルバムをわたしの方に近づけ、自分自身もわたしに近づいた。
「どうこれ?」
そこには、ただ大人の男女が二人と彼女らしい6才くらいの女の子が海岸を背景にして、こっちを見ている写真があった。
「不思議でしょ?」
そう言って彼女は、声をちょっと出して笑った。
【Vol.8】
不思議な感じがしたのは、どうしてだろう。
確かに、家族が揃って写真に映っているようなのだが、どうにも
異様な感じがしたのは、事実だった。
背景が海だけと言うのが珍しいのか?
それぞれの立っている距離がやや、離れているのがそうなのか?
春か初夏らしい光景なのに、明るさがないからなのか?
いや、違う。
笑っていないのだ。
みんなが、無表情でこっちを向いているだけなのだ。
これは、異様と言っていい。能面のような三人が海をバックにこっちをただ見ているだけなのだ。
「不思議だね」
そう、わたしが言ったのは彼女がコーヒーをすすり始めた時だった。
彼女は目を閉じて、何かを思い出そうとしているようだった。
*******
ワタシハ何時ニナッタラコノ世界カラ逃レラレルノダロウ。
アノ時ガ始マリダッタノダ。
ワタシノ横ニハ、今日知リ合ッタ人ガイル。デモ、彼ハナンニモ感ジルコトハデキナイダロウ。
イクラ、ワタシガ叫ンデモ、訴エテモ。シカシ、ココニ来テ貰ッタノハ
聞イテ貰イタカッタワタシノ過去ガアルカラニ違イナイ。
チョット待テ。ソウナノカ?
ワタシノ過去ヲ聞イテ貰ッテドウナルトイウノダ?
チガウ。
ワタシハモット、苦シマナケレバイケナイノニ。
【Vol.9】
彼女の顔は何かを思い詰めているような、重い表情になったかと思うと、すぐに元のほほえみを浮かべた顔に戻った。
そして、語り始めたのだ。
わたしは、生まれてきてどうだったかと思うときがある。
生と死がどういう物か、あなたは知ってるのかな?わかんないよね。生きていることと、死んでいることの違い。
わたしは、生まれたときから死んでいたの。
どういうことかわかんないでしょ。
生まれてね、3才の時に不治の病っていわれる乳児白血病って
医者に宣告されたんだ。それでも、両親はすごく頑張って世話をしてくれた。
5才には、命がなくなるって分かっていたのに、おとうさんとお母さんは、自分の仕事の合間に看病にいつも来てくれていた。当然?
そうかも
知れないね。
でも、わたしの入院費用がとても払えなくなったのは、あっという間のことだった。
だってね、特別な病気でその上、治療費、入院費がかかって、もちろん保険なんかに入られなかったからね。
【Vol.10】
「それでね、お金が無くなっちゃったらしくて毎日、お父さんとお母さんがお金の話をしてるのをなんとなく、感じてたの。
わたしはそのとき、まだ4才だったかな、でもわかったよ。お金がなくてわたしを入院させておくのが出来ないって話しているの。
そのうちね、お父さんが呟いたのを聞き逃さなかったけど、それって嫌なことばだったよ。
「盗む」とか「だます」とか言ったんだよ。
母も反対はしなかったように、今でも思っているなあ。
きっと、賛成したと思うよ。
うちの家族は親戚とかなかったんだ。両親の親はすでに他界していたし、兄弟もいるにはいたけど交流もなかった。
だから、お金を借りるってことができなかったんだよね。
そのときの父の仕事は、建築会社で設計してたの。帰るのが大抵は遅かったね。
母もわたしの病気が分かるまでは、同じ会社で事務をやっていたんだけど、わたしの看病のために止めちゃったみたい。
父だけのお給料じゃ、入院費とか払えなかったみたいなの。
普通の病気じゃないから、すごくお金がかかったことは後から分かったんだけど。
それで、もう最後の手段だと思ったんだろうなあ。金策をするには、犯罪しかないって。
持ち家でもあれば、売ることも出来るし借りられたかもしれないけど、アパートに住んでたからね、そのときはもう。
以前はちゃんとした一軒家に居たけどね、それはすぐに売ってしまっていたみたい。
つまり、もう無いんだよ、お金が。そう言う状況ってわかんないでしょ。
全然ない。親がいるとね、なくってもなんとかしてくれるよね。
でも、さっきも言ったけど親が死んだときにはわたしの親の兄たちが、勝手に、
親のすくなかったらしい財産を持ち出してうちにはほとんどくれなかったって。
お金がないと人って変わるもんなんだね。あの父や母が、「ぬすむ」って言っていたんだよ」
そこまで話して、ちょっと疲れたのか彼女は、「ふうっ」とため息をついて、
「ちょっと待ってて」
と言いながら、この部屋を出て行った。
Vol.11
わたしは、彼女から聞きながら自分の過去を同時に思い起こしていた。
そういえば、特にお金の心配をしたことは無かったし、家庭内の問題なんてなかった。
普通の家庭に育って、普通に仕事して普通の家庭を持っている。普通?
しかし、普通ってこういうのが普通なのか?
事件が起こらなかったら普通で、病人がでなかったり、
早死にするひとが家族にいなかったら普通なのか?
彼女は、普通じゃないって?
わたしは自分の中でのひとつの概念の把握の方法と是非について、突然とまどった。
彼女を奇異の目で見ているわたしって、なんなのか?普通の人間が彼女のような環境で育ったひとを普通ではない、
って言う思いではなしを聞いているのか?
部屋はすこし暖かくなってきていたので、わたしはさっきまで来ていたレザーのブルゾンを脱ぎ、壁際にあったコート掛けにつるした。
木で出来た分厚い板に真鍮なのだろう、くすんだ色の金属のフックがついている、アンティックなものだ。
この家に似合っているな、とつまらないことを思いながら、彼女を待っていた。
「おまたせ」
と言いながら持ってきたのは、バーボンだった。
彼女が作ったのだろう、簡単なオードブルのような物もある。
飲もうと言うのか?
わたしはアルコールは嫌いじゃないが、いまから飲むのには、気が引けた。
躊躇しているわたしを悟ったのだろう、彼女は
「すこし、飲みましょう。話も長くなっちゃうから」
そう言って、グラスにワイルドターキーを注ぐのだった。
Vol.12
ロックで飲むターキーは、のどを刺激しながら熱く胃臓に流れて行った。
彼女は、ストレートですこしづつ飲んでいる。
すこしの間、沈黙があった。
一体、わたしはどうしてここで、彼女とほとんど体が触れるくらいなところでいるのだろう?
そう、思った矢先、
「続き聞きたい?」
彼女がそういうのをわたしは、ただうなずいただけだった。
興味本位で聞くのではないが、聞かないことで気持ちが納まることは考えられなかった。
「父はね、最初は会社の同僚からお金を借りていたみたい。家を建てるから、
頭金にするからとか言って。それを何人にもして、返済の約束が
守られなかったから、借りた人たちが怒りだしたの。
そこでね、思いついたのがさっき話をしていたこと、つまり、犯罪なんだよね。
新聞なんかで見てると馬鹿げたことをしてるなあ、って思う銀行強盗なんだよ。
現金輸送車を狙って、覆面をして模造のピストルで脅かして、お金を奪おうと考えたんだね。
でも、そのときね、思いもよらないことがあったんだって。
現金輸送って大抵は専門の運送業者の現金専門の車両つかうよね。
それが、運送業者も銀行とこの手の犯罪を防ぐためにいろいろ手を打っていて、
その日は普通の車を使ったみたいで、父は計画を練ってから何度も下見をしてたけど、
その日に限って頑丈な現金輸送車じゃなかったのね。
あわてた父は、それでもいくらかのお金があると思って、ピストルで脅かしてお金を奪おうとしたんだよ。
もうね、多いとか少ないとか考えられなかったみたい。あ、お金がね。
結局、1000万円くらいしか入ってないバッグを奪って、盗んだ車で逃走したんだけど、その時はうまくいったみたい。
でも、すぐに警察が動き出したのね。
あたりまえだけど。それで、自分の身辺に捜査が及びそうになったのを察したのか、盗んでから、5日目くらいかなあ、
母とわたしを呼んでね、畳の上に輪のように座って、こう言い出したんだよ。
Vol.17
その写真を撮ってからね、使い捨てカメラを崖の上に置いて、3人は靴をぬいだの。
みんな言葉は無かったけど、父が最後に言ったことは覚えてるよ。
「これは死ぬんじゃないよ、別の世界で生きるんだからね」
ああ、慰めてくれてるなとわたしは思ったね。
でも、父の優しい言葉もわたしには何の心の変化も与えてはくれなかったし、それでいいと思ったね。
崖から、飛んだんだよ。
ふわーっとね。
空気がとても、感じよくわたしの体の回りを通り過ぎて行くのが分かった。
どこに行ってるのかなあ、そんかことを一瞬思ったよ。
体はね、くるくる空気の中を回っているから、景色が回転してるんだよ。
瀬戸内海の島々が、全部わたしの目の中に入ってきたよ。
でね、そうしたら段々、青い空が急に暗くなった感じがしたの。
気を失ったのかなって自分で感じていたくらいだから、どうだったのかな?
でも、海に近づいたのは分かったよ。
あ、死ぬんだって思った。
海面が近づくってすごく怖いね。
死ぬってことより、怖いっておかしいかもしれないけど、怖いよね。
わたしは、ひとりで海の中に落ちて行った。
Vol.18
海は、暗かった。うんと沈んだんだね、きっと。
でもね、うっすらなにか見えるものがあったんだよ。
なにかなってよく見るとね、トンネルみたいだった。
ああ、あそこに行けばなにかあるのかなって思っていってみたんだよね。泳いで行ったと思うな。
トンネルかと思っていたけどね、違ったよ。岩の洞窟みたいだったな。
でね、そこにはいろんな人がいたんだよ。
泣いている中年の女の人とかね、怒ってばかりの男の人がいた。
年とってね、動けないおじいさんが手でわたしを招いているのも見えたよ。
若いカップルもいたよ、高校生みたいだったけど裸どうしだったな。
抱き合っていたけど泣いていたよ。
ココハ一体ドコナンダロウ。ワタシハ海ノ中ニイルノニ、モウ死ンジャッタノカナ?
ココデミンナ何シテルンダロウ?死ンダ世界ッテコンナノカナア。イヤダナア。
モット、楽ナハズナノニナンダカミンナ悲シソウダヨ。
ワタシハ、ココニハ居タクナイヨ、怖イヨ。助ケテ!ココカラ出シテ!
そう思ったとき、いきなり強い力でわたしの体が、
なにかに引っ張られて行ったんだ。
Vol.19
わたしは、海辺の砂浜の上にいたのに気がついた。
ひとがわたしを囲んで体を押して人工呼吸してる。
おかしいね。生きてるわけないのに。
でも、わたしは死ななかった。ここにいるから死んでるわけないよね。
やがて死ぬはずだから、死んでもいいのに生きていたんだよ。
そのかわり、父と母は死んじゃった。
だから、そのあとはわたしは孤児院で育ったんだよ。
医者に死ぬって言われていて、死なずにここにいてあなたと
話をしてるって、おかしいよね。
結局、わたしは死なずにすんだんだけど、医者もなぜかわからないって。
人を殺したって言ったよね。そうなの、父と母を殺したことと同じだよね。
だからわたしは、父と母の命を背負って生きていかなきゃいけない。
みんな優しく言ってくれたけどね、あなたのせいじゃないって。
違うんだよ、わたしのせいなのにみんな慰めてくれるのはいいんだけど、
これは全部わたしのせいなんだよね。
あなたは分かるよね?
わたしのせいだってこと。
分かるはずだよ。だって、何にも言わずに聞いているし、わたしには分かる。
「君には、悪いこと無いよ」って言われるような人にはこんなこと話すわけないよ。
また、夕紀はバーボンを飲みながらため息をついた。
それから、話し疲れたのだろう、テーブルに頭をつけてしまった。
Vol.20
少しの間、わたしは夕紀の姿を見ていた。
テーブルに額をつけて何を考えているのか。
おそらくは、話した内容からまたそのときのことを思い出して、呵責の念が湧き出てきたのだろう。
呵責?実際、彼女が殺人を犯したわけではないのだ。
しかし、人を殺したと言うことも分からない論理でもない。
責任が彼女にあるわけはないが、彼女自身が耐えきれないのだろう。
引き金になったのが自分自身だったことに。
さらに、死ぬことになっていた病が治って今も生を持っていることが父と母に言えないことが苦しいのだろう。
そうしていると、彼女はテーブルから頭を起こし「わたし、寝てたのかな? 夢をみてた、海の中の洞窟のゆめ。
嫌な感じだったな。でも、そこにはおとうさんとおかあさんがいたの。
そしてね、楽しそうに話しているの、夕紀は大丈夫みたいだねって」
わたしは、夕紀の顔を見ながら自分自身の生活のことを思い浮かべていた。
【Vol.21】
わたしの人生ってなんなのだろう。
これが普通なのかもしれないが、生きていること以上になにがあると言うのか。
結婚して、5年経つ。子供は男の子がひとり。3才になる。
確かに、子供はとてもかわいい。自分でもこんなに子供好きだったのかなって思う時もよくある。
会社、これは収入を得るためだけのものだ。特にやりがいなんて殊勝なことを言うことはないし、言えるような状況ではない。
会社での、自分の立場は悪くはないかも知れない。
しかし、それだけのことであって、それ以上のものではない。
はっきりと言ってしまえば、収入源がほかに安定してあればすぐにでもやめたい。
家庭。いよいよ分からないのがこれだ。
一体、家庭とか家族ってなんなのだろう。わたしは以前にも書いたがなにひとつ、不自由なく育った。
家族は健康で経済的にも困ったことはない。一応、大学も出ている。
これもそれだけのことだ。
家族の楽しみ?
食事を一緒にとることか?
子供の成長を楽しみにすることか?
家族でアウトドアでキャンプをすることか?
一体それがどうしたと言うのだろう。
すべてが、空白な感じなのだ。
空虚と言うのがいいのか。
【Vol.22】
わたしの人生ってなんなのだろう。
これが普通なのかもしれないが、生きていること以上になにがあると言うのか。
結婚して、5年経つ。子供は男の子がひとり。3才になる。
確かに、子供はとてもかわいい。自分でもこんなに子供好きだったのかなって思う時もよくある。
会社、これは収入を得るためだけのものだ。特にやりがいなんて殊勝なことを言うことはないし、言えるような状況ではない。
会社での、自分の立場は悪くはないかも知れない。
しかし、それだけのことであって、それ以上のものではない。
はっきりと言ってしまえば、収入源がほかに安定してあればすぐにでもやめたい。
家庭。いよいよ分からないのがこれだ。
一体、家庭とか家族ってなんなのだろう。わたしは以前にも書いたがなにひとつ、不自由なく育った。
家族は健康で経済的にも困ったことはない。一応、大学も出ている。
これもそれだけのことだ。
家族の楽しみ?
食事を一緒にとることか?
子供の成長を楽しみにすることか?
家族でアウトドアでキャンプをすることか?
一体それがどうしたと言うのだろう。
すべてが、空白な感じなのだ。
空虚と言うのがいいのか。
てないバッグを奪って、盗んだ車で逃走したんだけど、その時はうまくいったみたい。
でも、すぐに警察が動き出したのね。
あたりまえだけど。それで、自分の身辺に捜査が及びそうになったのを察したのか、盗んでから、5日目くらいかなあ、
母とわたしを呼んでね、畳の上に輪のように座って、こう言い出したんだよ。